< マタイの福音書 26 >

1 第四項 敵等イエズスの死刑を謀る イエズス総て此談を畢り給ひて、弟子等に曰ひけるは、
イエスこれらの言をみな語りをへて、弟子たちに言ひ給ふ
2 汝等の知れる如く、二日の後は過越の祝行はれん。然て人の子は十字架に釘けられん為に付さるべし、と。
『なんぢらの知るごとく、二日の後は過越の祭なり、人の子は十字架につけられん爲に賣らるべし』
3 其時司祭長、民間の長老等、カイファと云へる司祭長の庭に集り、
そのとき祭司長・民の長老ら、カヤパといふ大 祭司の中庭に集り、
4 詭りてイエズスを捕へて殺さんと謀りしが、
詭計をもてイエスを捕へ、かつ殺さんと相 議りたれど、
5 云へらく、祝日には之を為すべからず、恐らくは騒動人民の中に起らん、と。
又いふ『まつりの間は爲すべからず、恐らくは民の中に亂 起らん』
6 然てイエズスベタニアにて、癩病者シモンの家に居給ひけるに、
イエス、ベタニヤにて癩病人シモンの家に居給ふ時、
7 或女値高き香油を盛りたる器を持ちてイエズスに近づき、食に就き居給へる頭に注ぎしが、
ある女、石膏の壺に入りたる貴き香 油を持ちて、近づき來り、食事の席に就き居給ふイエスの首に注げり。
8 弟子等之を見て憤り、其費は何の為ぞ、
弟子たち之を見て憤ほり言ふ『何 故かく濫なる費をなすか。
9 是は高く売りて貧者に施すを得たりしものを、と云ひけるを、
之を多くの金に賣りて、貧しき者に施すことを得たりしものを』
10 イエズス知りて彼等に曰ひけるは、何ぞ此女を累はすや、彼は我に善行を為せり。
イエス之を知りて言ひたまふ『何ぞこの女を惱すか、我に善き事をなせるなり。
11 蓋貧者は常に汝等と共に居れども、我は常に居らず。
貧しき者は常に汝らと偕にをれど、我は常に偕に居らず。
12 此女が此香油を我身に注ぎしは、我を葬らんとて為したるなり。
この女の我が體に香 油を注ぎしは、わが葬りの備をなせるなり。
13 我誠に汝等に告ぐ、全世界何國にもあれ、此福音の宣傳へられん處には、此女の為しし事も、其記念として語らるるべし、と。
まことに汝らに告ぐ、全世界いずこにても、この福音の宣傅へらるる處には、この女のなしし事も記念として語らるべし』
14 時に十二人の一人イスカリオテのユダと云へる者、司祭長等の許に往きて、
ここに十二 弟子の一人イスカリオテのユダといふ者、祭司長らの許にゆきて言ふ
15 汝等我に何を與へんとするか、我汝等に彼を付さん、と云ひしに、彼等銀三十枚を約せしかば、
『なんぢらに彼を付さば、何ほど我に與へんとするか』彼ら銀 三十を量り出せり。
16 ユダ此時よりイエズスを付さんとして、機を窺ひ居たり。
ユダこの時よりイエスを付さんと好き機を窺ふ。
17 第五項 最終の晩餐 無酵麪の祝の日、弟子等イエズスに近づきて云ひけるは、我等が汝の為に備ふる過越の食事は何處ならん事を望み給ふか。
除酵祭の初の日、弟子たちイエスに來りて言ふ『過越の食をなし給ふために、何處に我らが備ふる事を望み給ふか』
18 イエズス曰ひけるは、汝等街に往き、某の許に至りて、師曰く、我時近づけり、我弟子と共に汝の家に過越を行はんとす、と云へと。
イエス言ひたまふ『都にゆき、某のもとに到りて「師いふ、わが時 近づけり。われ弟子たちと共に過越を汝の家にて守らん」と言へ』
19 弟子等イエズスに命ぜられし如くにして、過越の備を為せり。
弟子たちイエスの命じ給ひし如くして、過越の備をなせり。
20 夕暮に及びて、イエズス十二弟子と共に食に就き給ひしが、
日 暮れて十二 弟子とともに席に就きて、
21 彼等の食しつつある程に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、汝等の中一人我を付さんとす、と。
食するとき言ひ給ふ『まことに汝らに告ぐ、汝らの中の一人われを賣らん』
22 彼等甚だ憂ひて、主よ、其は我なるかと、各云出でしに、
弟子たち甚く憂ひて、おのおの『主よ、我なるか』と言ひいでしに、
23 イエズス答へて曰ひけるは、我と共に鉢に手を附くる者我を付さん。
答へて言ひたまふ『我とともに手を鉢に入るる者われを賣らん。
24 抑人の子は、己に就きて録されたる如く逝くと雖、人の子を付す者は禍なる哉、生れざりしならば、寧彼に取りて善かりしものを、と。
人の子は己に就きて録されたる如く逝くなり。されど人の子を賣る者は禍害なるかな、その人は生れざりし方よかりしものを』
25 イエズスを売りしユダ答へて、ラビ其は我なるか、と云ひしにイエズス、汝の云へるが如し、と曰へり。
イエスを賣るユダ答へて言ふ『ラビ、我なるか』イエス言ひ給ふ『なんぢの言へる如し』
26 一同晩餐しつつあるに、イエズス麪を取り、祝して之を擘き、弟子等に與へて曰ひけるは、汝等取りて食せよ、是我體なりと。
彼ら食しをる時、イエス、パンをとり、祝してさき、弟子たちに與へて言ひ給ふ『取りて食へ、これは我が體なり』
27 又杯を取りて謝し、彼等に與へて曰ひけるは、汝等皆是より飲め。
また酒杯をとりて謝し、彼らに與へて言ひ給ふ『なんぢら皆この酒杯より飮め。
28 是罪を赦されんとて衆人の為に流さるべき、新約の我血なり。
これは契約のわが血なり、多くの人のために、罪の赦を得させんとて流す所のものなり。
29 我汝等に告ぐ、我父の國にて共に汝等と共に新なるものを飲まん日までは、我今より此葡萄の液を飲まじ、と。
われ汝らに告ぐ、わが父の國にて新しきものを汝らと共に飮む日までは、われ今より後この葡萄の果より成るものを飮まじ』
30 斯て賛美歌を誦へ畢り、皆橄欖山に出行きけるに、
彼ら讃美を歌ひて後オリブ山に出でゆく。
31 イエズス曰ひけるは、今夜汝等皆我に就きて躓かん、其は録して「我牧者を撃たん、斯て群の羊散らん」とあればなり。
ここにイエス弟子たちに言ひ給ふ『今宵なんぢら皆われに就きて躓かん「われ牧羊者を打たん、さらば群の羊 散るべし」と録されたるなり。
32 然れど我蘇りて後、汝等に先ちてガリレアに往かん。
されど我よみがへりて後、なんぢらに先だちてガリラヤに往かん』
33 ペトロ答へて云ひけるは、假令人皆汝に就きて躓くとも、我は何時も躓かじ。
ペテロ答へて言ふ『假令みな汝に就きて躓くとも我はいつまでも躓かじ』
34 イエズス答へて曰ひけるは、我誠に汝に告ぐ、今夜鶏鳴く前に、汝三度我を否まん。
イエス言ひ給ふ『まことに汝に告ぐ、こよひ鷄 鳴く前に、なんぢ三たび我を否むべし』
35 ペトロ云ひけるは、假令汝と共に死すべくとも、我汝を否まじと。弟子等皆同じ様に云へり。
ペテロ言ふ『我なんぢと共に死ぬべき事ありとも汝を否まず』弟子たち皆かく言へり。
36 第六項 ゲッセマニに於るイエズス 斯てイエズス彼等と共にゲッセマニと云へる田家に至り、弟子等に向ひて、我が彼處に往きて祈る間汝等此處に坐せよ、と曰ひ、
ここにイエス彼らと共にゲツセマネといふ處にいたりて、弟子たちに言ひ給ふ『わが彼處にゆきて祈る間、なんぢら此處に坐せよ』
37 ペテロとゼベデオの二人の子とを携へて、憂悲み出で給へり。
かくてペテロとゼベダイの子 二人とを伴ひゆき、憂ひ悲しみ出でて言ひ給ふ、
38 然て彼等に曰ひけるは、我魂死ぬばかりに憂ふ、汝等此處に留まりて我と共に醒めて在れ、と。
『わが心いたく憂ひて死ぬばかりなり。汝ら此處に止りて我と共に目を覺しをれ』
39 然て少しく進み行き、平伏して祈りつつ曰ひけるは、我父よ、若能ふくば、此杯我より去れかし、然れど我意の儘にとには非ず思召の如くになれ、と。
少し進みゆきて、平伏し祈りて言ひ給ふ『わが父よ、もし得べくば此の酒杯を我より過ぎ去らせ給へ。されど我が意の儘にとにはあらず、御意のままに爲し給へ』
40 斯て弟子等の許に至り、彼等の眠れるを見てペトロに曰ひけるは、斯も汝等、一時間を我と共に醒め居る能はざりしか、
弟子たちの許にきたり、その眠れるを見てペテロに言ひ給ふ『なんぢら斯く一 時も我と共に目を覺し居ること能はぬか。
41 誘惑に入らざらん為に醒めて祈れ、精神は逸れども肉身は弱し、と。
誘惑に陷らぬやう、目を覺しかつ祈れ。實に心は熱すれども肉體よわきなり』
42 再行きて祈り曰ひけるは、我父よ、此杯我之を飲まずして去る能はずば、思召成れかし、と。
また二度ゆき祈りて言ひ給ふ『わが父よ、この酒杯もし我 飮までは過ぎ去りがたくば、御意のままに成し給へ』
43 又再至りて彼等の眠れるを見給へり、蓋彼等の目疲れたるなり。
復きたりて彼らの眠れるを見たまふ、是その目 疲れたるなり。
44 又彼等を離れて行き、三度目に同じ言を唱へて祈り給ひしが、
また離れゆきて、三たび同じ言にて祈り給ふ。
45 頓て弟子等に至りて曰ひけるは、今は早眠りて息め、すは時は近づけり、人の子罪人に付されんとす。
而して弟子たちの許に來りて言ひ給ふ『今は眠りて休め。視よ、時 近づけり、人の子は罪人らの手に付さるるなり。
46 起きよ、行かん、看よ、我を付す者近づけり、と。
起きよ、我ら往くべし。視よ、我を賣るもの近づけり』
47 第七項 イエズス捕へられ給ふ 尚語り給へるに、折しも十二人の一人なるユダ來り、又司祭長民間の長老等より遣はされた大群衆、剣と棒とを持ちて是に伴へり。
なほ語り給ふほどに、視よ、十二 弟子の一人なるユダ來る、祭司長・民の長老らより遣されたる大なる群衆、劍と棒とをもちて之に伴ふ。
48 イエズスを売りしもの彼等に合圖を與へて、我が接吻する所の人其なり、彼を捕へよ、と云ひしが、
イエスを賣る者あらかじめ合圖を示して言ふ『わが接吻する者はそれなり、之を捕へよ』
49 直にイエズスに近づき、ラビ安かれ、と云ひて接吻せり。
かくて直ちにイエスに近づき『ラビ、安かれ』といひて接吻したれば、
50 イエズス彼に曰ひけるは、友よ、何の為に來れるぞ、と。時に人々近づきて、イエズスに手を掛けて之を捕へたり。
イエス言ひたまふ『友よ、何とて來る』このとき人々すすみてイエスに手をかけて捕ふ。
51 折しも、イエズスと共に在りし者の一人、手を伸べて剣を抜き、司祭長の僕を撃ちて其耳を斬落しかば、
視よ、イエスと偕にありし者のひとり、手をのべ劍を拔きて、大 祭司の僕をうちて、その耳を切り落せり。
52 イエズス是に曰ひけるは、汝の剣を鞘に収めよ、其は総て剣を把る者は剣にて亡ぶべければなり。
ここにイエス彼に言ひ給ふ『なんぢの劍をもとに收めよ、すべて劍をとる者は劍にて亡ぶるなり。
53 我我父に求め得ずと思ふか、父は必直に十二隊にも餘れる天使を我に賜ふべし。
我わが父に請ひて、十二 軍に餘る御使を今あたへらるること能はずと思ふか。
54 若然らば、斯あるべしと云へる聖書の言、争でか成就せん、と。
もし然せば、斯くあるべく録したる聖書はいかで成就すべき』
55 同時にイエズス群衆に曰ひけるは、汝等強盗に向ふ如く、剣と棒とを持ちて我を捕へに出來りしか、我日々[神]殿にて汝等の中に坐して教へ居りしに、汝等我を捕へざりき。
この時イエス群衆に言ひ給ふ『なんぢら強盜に向ふごとく劍と棒とをもち、我を捕へんとて出で來るか。我は日々 宮に坐して教へたりしに、汝ら我を捕へざりき。
56 然れど、総て此事の成れるは預言者等の書の成就せん為なり、と。此時弟子等皆イエズスを舍きて遁去れり。
されどかくの如くなるは、みな預言者たちの書の成就せん爲なり』ここに弟子たち皆イエスを棄てて逃げさりぬ。
57 第八項 イエズスカイファの家に引かれ給ふ イエズスを捕へたる人々、既に律法學士長老等の相集り居たる、司祭長カイファの家に引行きしが、
イエスを捕へたる者ども、學者・長老らの集り居る大 祭司カヤパの許に曳きゆく。
58 ペトロ遥にイエズスに從ひて司祭長の庭まで至り、事態を見んとて内に入り、僕等と共に坐し居たり。
ペテロ遠く離れ、イエスに從ひて大 祭司の中庭まで到り、その成行を見んとて、そこに入り下役どもと共に坐せり。
59 司祭長等と凡ての議員とは、イエズスを死に處せんとて、是に對する僞證を求め、
祭司長らと全 議會と、イエスを死に定めんとて、いつはりの證據を求めたるに、
60 許多の僞證人來りたれども猶之を得ざりしが、終に二人の僞證人來りて
多くの僞證者いでたれども得ず。後に二人の者いでて言ふ
61 云ひけるは、此人「我は神殿を毀ちて三日の後再之を建直す事を得」と云へり、と。
『この人は「われ神の宮を毀ち三日にて建て得べし」と云へり』
62 司祭長起ちてイエズスに向ひ、此人々の汝に對して證する所に、汝は何をも答へざるか、と云ひしも、
大 祭司たちてイエスに言ふ『この人々が汝に對して立つる證據に何をも答へぬか』
63 イエズス黙し居給へば、司祭長云ひけるは、我活ける神によりて汝に命ず、汝は神の子キリストなるか、我等に告げよ。
されどイエス默し居給ひたれば、大 祭司いふ『われ汝に命ず、活ける神に誓ひて我らに告げよ、汝はキリスト、神の子なるか』
64 イエズス曰ひけるは、汝の云へるが如し、然れども我汝等に告ぐ、此後汝等、人の子が全能に坐す神の右に坐して、空の雲に乗り來るを見るべし、と。
イエス言ひ給ふ『なんぢの言へる如し。かつ我なんぢらに告ぐ、今より後、なんぢら人の子の全能者の右に坐し、天の雲に乘りて來るを見ん』
65 此時、司祭長己が衣服を裂きて云ひけるは、彼冒涜の言を出せり。我等何ぞ尚證人を要せん、汝等今冒涜の言を聞きて
ここに大 祭司おのが衣を裂きて言ふ『かれ瀆言をいへり、何ぞ他に證人を求めん。視よ、なんぢら今この瀆言をきけり。
66 如何に思ふぞ、と。彼等答へて、其罪死に至る、と云へり。
いかに思ふか』答へて言ふ『かれは死に當れり』
67 是に於て下役等イエズスの御顔に唾し、拳にて打ち、或者は平手にて御顔を擲きて云ひけるは、
ここに彼 等その御顏に唾し、拳にて搏ち、或 者どもは手掌にて批きて言ふ
68 キリストよ、汝を批てる者の誰なるかを我等に預言せよ、と。
『キリストよ、我らに預言せよ、汝をうちし者は誰なるか』
69 然てペトロ外にて庭に坐し居たるに、一人の下女是に近づき、汝もガリレアのイエズスと共に居りき、と云ひしかば、
ペテロ外にて中庭に坐しゐたるに、一人の婢女きたりて言ふ『なんぢもガリラヤ人イエスと偕にゐたり』
70 彼衆人の前にて之を否み、我汝の云ふ所を知らず、と云へり。
かれ凡ての人の前に肯はずして言ふ『われは汝の言ふことを知らず』
71 門を出る時、又他の下女之を見て、居合す人々に向ひ、是もナザレトのイエズスと共に居りき、と云ひたるに、
かくて門まで出で往きたるとき、他の婢女かれを見て、其處にをる者どもに向ひて『この人はナザレ人イエスと偕にゐたり』と言へるに、
72 彼又誓ひて、我彼人を知らず、と否めり。
重ねて肯はず、契ひて『我はその人を知らず』といふ。
73 暫時ありて、側なる人々近づきてペトロに云ひけるは、汝も確に彼等の一人なり、汝の方言までも汝を顕せり、と。
暫くして其處に立つ者ども近づきてペテロに言ふ『なんぢも慥にかの黨與なり、汝の國訛なんぢを表せり』
74 是に於て彼、其人を知らず、とて詛ひ且誓ひ始めしかば、忽ちにして鶏鳴けり。
ここにペテロ盟ひかつ契ひて『我その人を知らず』と言ひ出づるをりしも、鷄 鳴きぬ。
75 斯てペトロ、イエズスが鶏鳴く前に汝三度我を否まんと曰ひし言を思出し、外に出でて甚く泣けり。
ペテロ『にはとり鳴く前に、なんぢ三度われを否まん』と、イエスの言ひ給ひし御言を思ひだし、外に出でて甚く泣けり。

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