< マタイの福音書 19 >

1 第四項 イエズスエルザレムへの最後の旅行 是等の談を畢りて、イエズス遂にガリレアを去り、ヨルダン[河]の向なるユデアの境に至り給ひしが、
イエスはこれらのことを語り終えられてから、ガリラヤを去ってヨルダンの向こうのユダヤの地方へ行かれた。
2 群衆夥しく之に從ひければ、其處にて彼等を醫し給へり。
すると大ぜいの群衆がついてきたので、彼らをそこでおいやしになった。
3 ファリザイ人近づきて、彼を試みて云ひけるは、如何なる理由の下にも、人は其妻を出すを得べきか。
さてパリサイ人たちが近づいてきて、イエスを試みようとして言った、「何かの理由で、夫がその妻を出すのは、さしつかえないでしょうか」。
4 イエズス答へて曰ひけるは、汝等読まざりしか、即元始に人を造り給ひしもの、之を男女に造りて曰はく、
イエスは答えて言われた、「あなたがたはまだ読んだことがないのか。『創造者は初めから人を男と女とに造られ、
5 「此故に、人は父母を離れて、其妻に就き兩人一體と成るべし」と、
そして言われた、それゆえに、人は父母を離れ、その妻と結ばれ、ふたりの者は一体となるべきである』。
6 然れば既に二人に非ずして一體なり、故に神の配せ給ひしもの、人之を分つべからず、と。
彼らはもはや、ふたりではなく一体である。だから、神が合わせられたものを、人は離してはならない」。
7 ファリザイ人云ひけるは、然らば離縁状を與へて妻を出すべし、とモイゼの命ぜしは何ぞや。
彼らはイエスに言った、「それでは、なぜモーセは、妻を出す場合には離縁状を渡せ、と定めたのですか」。
8 答へて曰ひけるは、モイゼは汝等の心の頑固なるが為に、妻を出す事を汝等に許したれど、元始より然はあらざりき。
イエスが言われた、「モーセはあなたがたの心が、かたくななので、妻を出すことを許したのだが、初めからそうではなかった。
9 即我汝等に告ぐ、総て私通の故ならで其妻を出し、他の女を娶る人は姦淫するなり、又出されたる女を娶る人も姦淫するなり、と。
そこでわたしはあなたがたに言う。不品行のゆえでなくて、自分の妻を出して他の女をめとる者は、姦淫を行うのである」。
10 弟子等イエズスに向ひ、若人の妻に於る事斯の如くば、娶らざるに若ず、と云ひしかば、
弟子たちは言った、「もし妻に対する夫の立場がそうだとすれば、結婚しない方がましです」。
11 イエズス曰ひけるは、人皆此言を肯容るるには非ず、[肯容るるは]賜はりたる者のみ。
するとイエスは彼らに言われた、「その言葉を受けいれることができるのはすべての人ではなく、ただそれを授けられている人々だけである。
12 即母の胎内より生れながらの閹者あり、人より為られたる閹者あり、又天國の為に自ら作せる閹者あるなり。肯容るるを得る人は肯容るべし、と。
というのは、母の胎内から独身者に生れついているものがあり、また他から独身者にされたものもあり、また天国のために、みずから進んで独身者となったものもある。この言葉を受けられる者は、受けいれるがよい」。
13 時に按手して祈られんが為、孩兒等イエズスに差出されしが、弟子等之を拒みければ、
そのとき、イエスに手をおいて祈っていただくために、人々が幼な子らをみもとに連れてきた。ところが、弟子たちは彼らをたしなめた。
14 イエズス彼等に曰ひけるは、孩兒等を容せ、其我に來るを禁ずること勿れ、天國は斯の如き人の為なればなり、と。
するとイエスは言われた、「幼な子らをそのままにしておきなさい。わたしのところに来るのをとめてはならない。天国はこのような者の国である」。
15 斯て彼等に按手し給ひ、さて此處を去り給へり。
そして手を彼らの上においてから、そこを去って行かれた。
16 折しも一人[の青年]イエズスに近づきて云ひけるは、善き師よ、我永遠の生命を得んには、如何なる善き事をか為すべき。 (aiōnios g166)
すると、ひとりの人がイエスに近寄ってきて言った、「先生、永遠の生命を得るためには、どんなよいことをしたらいいでしょうか」。 (aiōnios g166)
17 イエズス曰ひけるは、何ぞ善を我に問ふや、善き者は獨のみ、即神なり。但汝若生命に入らんと欲せば掟を守れ、と。
イエスは言われた、「なぜよい事についてわたしに尋ねるのか。よいかたはただひとりだけである。もし命に入りたいと思うなら、いましめを守りなさい」。
18 彼、何れ[の掟]ぞや、と云ひしにイエズス曰ひけるは、汝人を殺す勿れ、姦淫する勿れ、偸盗する勿れ、僞證する勿れ、
彼は言った、「どのいましめですか」。イエスは言われた、「『殺すな、姦淫するな、盗むな、偽証を立てるな。
19 汝の父母を敬へ、又汝の近き者を己の如く愛せよ、と。
父と母とを敬え』。また『自分を愛するように、あなたの隣り人を愛せよ』」。
20 青年云ひけるは、是皆我幼年より守りし所、猶我に缼けたるは何ぞや。
この青年はイエスに言った、「それはみな守ってきました。ほかに何が足りないのでしょう」。
21 イエズス曰ひけるは、汝若完全ならんと欲せば、往きて有てる物を売り、之を貧者に施せ、然らば天に於て寳を得ん、而して來りて我に從へ、と。
イエスは彼に言われた、「もしあなたが完全になりたいと思うなら、帰ってあなたの持ち物を売り払い、貧しい人々に施しなさい。そうすれば、天に宝を持つようになろう。そして、わたしに従ってきなさい」。
22 此言を聞くや青年憂ひて去れり、是多くの財産を有てる者なればなり。
この言葉を聞いて、青年は悲しみながら立ち去った。たくさんの資産を持っていたからである。
23 イエズス弟子等に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、富者は天國に入り難し、
それからイエスは弟子たちに言われた、「よく聞きなさい。富んでいる者が天国にはいるのは、むずかしいものである。
24 又汝等に告ぐ、駱駝が針の孔を通るは、富者の天國に入るよりも易し、と。
また、あなたがたに言うが、富んでいる者が神の国にはいるよりは、らくだが針の穴を通る方が、もっとやさしい」。
25 弟子等聞きて甚怪しみ、然らば誰か救はるるを得ん、と云ひければ、
弟子たちはこれを聞いて非常に驚いて言った、「では、だれが救われることができるのだろう」。
26 イエズス彼等を凝視めつつ曰ひけるは、是人に於ては能はざる所なれども、神に於ては何事も能はざる所なし、と。
イエスは彼らを見つめて言われた、「人にはそれはできないが、神にはなんでもできない事はない」。
27 其時ペトロ答へて云ひけるは、然て我等は一切を棄てて汝に從へり、然れば何を得べきぞ、と。
そのとき、ペテロがイエスに答えて言った、「ごらんなさい、わたしたちはいっさいを捨てて、あなたに従いました。ついては、何がいただけるでしょうか」。
28 イエズス彼等に曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、我に從ひたる汝等は、世革りて人の子其光榮の座に坐せん時、汝等も十二の座に坐して、イスラエルの十二族を審くべし。
イエスは彼らに言われた、「よく聞いておくがよい。世が改まって、人の子がその栄光の座につく時には、わたしに従ってきたあなたがたもまた、十二の位に座してイスラエルの十二の部族をさばくであろう。
29 又総て我名の為に、或は家、或は兄弟、或は姉妹、或は父、或は母、或は妻、或は子等、或は田畑を離るる人は百倍を受け、且永遠の生命を得べし。 (aiōnios g166)
おおよそ、わたしの名のために、家、兄弟、姉妹、父、母、子、もしくは畑を捨てた者は、その幾倍もを受け、また永遠の生命を受けつぐであろう。 (aiōnios g166)
30 但多く、先なる人は後になり、後なる人は先にならん。
しかし、多くの先の者はあとになり、あとの者は先になるであろう。

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