< マルコの福音書 10 >
1 第七項 イエズスペレア地方に留り遂にエルサレムに赴き給ふ イエズス此處を立出でて、ヨルダン[河]の彼方なるユデアの境に至り給ひしに、群衆復其許に集りければ、例の如く復彼等を教へ居給へり。
2 時にファリザイ人等近づきて之を試み、人其妻を出すは可か、と問ひしに、
3 イエズス答へて、モイゼは汝等に何を命ぜしぞ、と曰ひしかば、
4 彼等云ふ、モイゼは離縁状を書きて妻を出す事を許せり。
5 イエズス彼等に答へて曰ひけるは、彼は汝等の心の頑固なるによりてこそ、彼掟を汝等に書與へつれ。
6 然れど開闢の初に、神は人を男女に造り給へり、
7 此故に人は父母を離れて其妻に合し、
8 兩人一體となるべし。然れば既に二人に非ずして一體なり。
9 故に神の合せ給ひし所、人之を分つべからず、と。
10 弟子等家に於て、復同じ事に就きて問ひしかば、
11 彼等に曰ひけるは、誰にても妻を出して他に娶るは、是彼女に對して姦淫を行ふなり。
12 又妻其夫を棄てて他に嫁ぐは、是姦淫を行ふなり、と。
13 時にイエズスの是に触れ給はん為に、人々幼兒等を差出したるに、弟子等其差出す人を叱りければ、
14 イエズス之を見て憤り給ひ、彼等に曰ひけるは、幼兒等の我に來るを容せ、之を禁ずること勿れ、神の國は斯の如き人の為なればなり。
15 我誠に汝等に告ぐ、総て幼兒の如くに神の國を承けざる人は、竟にに是に入らじ、と。
16 斯て幼兒等を抱き、按手して之を祝し居給へり。
17 イエズス途に出で給ひしに、一人馳來り、其前に跪きて、善き師よ、永遠の生命を得んには、我何を為すべきか、と問ひければ、 (aiōnios )
18 イエズス是に曰ひけるは、何ぞ我を善きと云ふや、神獨の外に善きものなし、
19 汝は掟を知れり、姦淫する勿れ、殺す勿れ、盗む勿れ、僞證する勿れ、害する勿れ、汝の父母を敬へ、と是なり、と。
20 彼答へて、師よ、我幼年より悉く之を守れり、と云ひしかば、
21 イエズス是に目を注ぎ、寵みて曰ひけるは、汝尚一を缼けり、往きて有てる物を悉く売り之を貧者に施せ、然らば天に於て寳を得ん、而して來りて我に從へ、と。
22 彼此言に悲み憂ひつつ去れり。其は多くの財産を有てる者なればなり。
23 イエズス見廻しつつ弟子等に、難い哉金を有てる人の神の國に入る事、と曰ひければ、
24 弟子等此言に驚きしかば、イエズス又答へて曰ひけるは、小子よ、難い哉金を恃める人の神の國に入る事。
25 富者が神の國に入るよりも、駱駝が針の孔を通るは易し、と。
26 彼等愈怪しみて語合ひけるは、然らば誰か救はるることを得ん、と。
27 イエズス彼等に目を注ぎつつ曰ひけるは、其は人に於て能はざる所なれども、神に於ては然らず、神に於ては何事も能はざる所なし、と。
28 ペトロイエズスに向ひて、然て我等は一切を棄てて汝に從ひたり、と云出でたるに、
29 イエズス答へて曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、総て我為また福音の為に、或は家、或は兄弟、或は姉妹、或は父、或は母、或は子等、或は田畑を離るる人は、
30 誰にてもあれ、百倍程を受けざるはなし、即今此世にては、家、兄弟、姉妹、母、子等、田畑を迫害と共に[受け、]後の世にては、永遠の生命を受けざるはなし。 (aiōn , aiōnios )
31 但多く先なる人は後になり、後なる人は先になるべし、と。
32 エルザレムに上る途中、イエズス弟子等に先ち給ふを、彼等驚き且怖れつつ從ひ居りしに、イエズス再十二人を近づけて、己に起るべき事を語出で給ひけるは、
33 看よ、我等エルザレムに上る。斯て人の子は司祭長、律法學士、長老等に売られ、彼等は之を死罪に處し、異邦人に付し、
34 且之を弄り、之に唾し、之を鞭ちて殺さん、而して三日目に復活すべし、と。
35 時に、ゼベデオの子ヤコボとヨハネとイエズスに近づきて云ひけるは、師よ、望むらくは、我等の願ふ所を、何事にもあれ我等に為し給はん事を、と。
36 イエズス、我が汝等に何を為さん事を願ふぞ、と曰ひければ、
37 彼等汝の光榮の中に一人は其右、一人は其左に坐することを我等に得させ給へ、と云ひしに、
38 イエズス曰ひけるは、汝等は願ふ所を知らず、汝等我が飲む杯を飲み、我が洗せらるる洗禮にて洗せられ得るか、と。
39 彼等、我等は得、と云ひしに、イエズス曰ひけるは、汝等實に我が飲む杯を飲まん、又我が洗せらるる洗禮にて洗せられん、
40 然れど我が右或は左に坐するは、我が汝等に得さすべき事に非ず、待設けられたる人々に得さすべきなり、と。
41 十人の者之を聞きて、大いにヤコボとヨハネとを憤り始めければ、
42 イエズス彼等を呼びて曰ひけるは、異邦人を司ると見ゆる人が之に主となり、又其君たる人が権を其上に振ふは、汝等の知れる所なり。
43 然れど汝等の中に於ては然らず、却て誰にもあれ、大いならんと欲する者は汝等の召使となり、
44 誰にもあれ、汝等の中に第一の者たらんと欲する者は一同の僕となるべし。
45 即人の子の來れるも、仕へらるる為に非ず、却て仕へん為、且衆人の贖として生命を與へん為なり、と。
46 斯て皆エリコに至りしが、イエズス弟子等と夥しき群衆を伴ひてエリコを出で給ふ時、チメオの子なる瞽者バルチメオ、路傍に坐して施を乞ひ居りしに、
47 是ナザレトのイエズスなりと聞くや、叫び出でてダヴィドの子イエズスよ、我を憫み給へ、と云ひければ、
48 多くの人彼を叱りて黙せしめんとすれども、彼益激しく、ダヴィドの子よ、我を憫み給へ、と呼はり居たり。
49 イエズス立止りて、彼を呼ぶ事を命じ給ひしかば、人々瞽者を呼びて、心安かれ、起て、汝を召し給ふぞ、と云ふや、
50 瞽者上着を抛棄て、躍揚りて御許に至りしが、
51 イエズス答へて、我に何を為られん事を欲するぞ、と曰ひしに瞽者は、ラッボニ、我目の見えん事を、と云へり。
52 イエズス之に向ひて、往け、汝の信仰汝を救へり、と曰ひしかば、彼忽見る事を得て途中までイエズスに從ひ行けり。