< 使徒の働き 7 >
1 第三 ステファノの説教 時に司祭長、是等の事果して然るか、と云ひしかば、
2 ステファノ云ひけるは、聞かれよ、兄弟にして父たる人々、我等の父アブラハム、カランに住居するに先だちて、メソポタミアに在りし時、光榮の神之に現れて、
3 曰ひけるは、汝國を去り親族を離れて、我が示さん地に至れ、と。
4 斯てアブラハムカルデア人の地を出でてカランに住みしが、其父の死後、神は彼處より、汝等が現に住める地に彼を移し給ひ、
5 足踏立つる許の地だに、其地にては遺産を賜はざりき。然れど其地を所有として之に與へ、其時は未だ子あらざりしも、後を子孫に與へん事を約し給ひ、
6 神之に曰ひけるは、「其子孫は他國に住み、人々之を奴隷と為し、四百年の間虐待せん、
7 然れども我彼等の仕へし所の國民を審くべし、斯て後彼等其國を出でて、此處にて我を禮拝せん、と主曰へり」、と。
8 アブラハム尚割禮の契約を賜はりしかば、イザアクを生みて八日目に之に割禮を施し、イザアクはヤコブを生み、ヤコブ十二人の太祖を生めり。
9 太祖等妬みてヨゼフをエジプトに売りたれど、神之と共に在して、
10 凡ての患難より救出し、エジプト國王ファラオンより寵愛を得させ、且智恵を賜ひしに由り、ファラオンはエジプトと己が家とを挙げて之に宰らしめたり。
11 然るに全エジプト及カナアンに飢饉と大いなる災難と起り、我等の先祖食物を求め得ざりしに、
12 ヤコブエジプトに麦あるを聞きて、先我等の先祖等を遣はし、
13 次の度にヨゼフ其兄弟に知られ、其族はファラオンに知られたり。
14 ヨゼフ人を遣はして、父なるヤコブ及び其家族、総て七十五人を呼來らししにより、
15 ヤコブエジプトに下り、其身も我等の先祖等も、彼處に死して、
16 シケムに送られ、アブラハムが曾てシケムに於てヘモルの子等より銀銭を以て買受けし墓地に葬られたり。
17 斯て神のアブラハムに誓ひ給ひし約束の時近づきしに、民の數増して大いにエジプトに繁殖したれば、
18 ヨゼフを知らざる他の王起るに及びて、
19 惡計を以て我等の種族に當り、我等の先祖を悩まして、其生子の存へざらん為に之を棄てしめたり。
20 モイゼ此時に當りて生れたりしが、神に美しくして父の家に育てらるる事三月、
21 然て遂に棄てられしをファラオンの女取挙げて、己が子として養育したり。
22 斯てモイゼはエジプト人の學術を悉く教へられ、言行共に力ありしが、
23 満四十歳の時、己が兄弟たるイスラエルの子孫を顧みんとの心起り、
24 或人の害せらるるを見て之を防ぎ、エジプト人を討ちて被害者の讐を返せり。
25 モイゼは兄弟等が、神の我手によりて己等を救ひ給ふべきを必ず悟るならんと思ひしに、彼等之を悟らざりき。
26 翌日彼等の相争へる處に顕れて和睦を勧め、人々よ、汝等は兄弟なるに何ぞ相害するや、と云ひしかば、
27 其近き者を害せる人、之を押退けて云ひけるは、誰か汝を立てて我等の司とし判官とせしぞ、
28 汝は昨日エジプト人を殺しし如く我を殺さんとするか、と。
29 此言によりモイゼ脱走してマヂアン地方に旅人と成り、彼處にて二人の子を挙げたり。
30 四十年を経てシナイ山の荒野に於て、燃ゆる茨の焔の中に天使之に現れければ、
31 モイゼ見て其見る所を怪しみ、見届けんとして近づきけるに、主の聲ありて曰く、
32 我は汝の先祖等の神、即ちアブラハムの神、イザアクの神、ヤコブの神なり、と。モイゼ戰慄きて、敢て注視ず、
33 主之に曰はく、足の履物を脱げ、汝の立てる所は聖地なればなり、
34 我はエジプトに在る我民の難を顧み、其嘆を聴きて彼等を救はん為に降れり、卒來れ、我汝をエジプトに遣はさん、と。
35 斯て彼等が、誰か汝を立てて我等の司とし判官と為ししぞ、と云ひて拒みし此モイゼをば、神は茨の中に現れし天使の手を以て、司とし救人として遣はし給ひしなり。
36 モイゼ彼等を導き出して、エジプトの地に紅海に又荒野に、四十年の間奇蹟と徴とを行ひしが、
37 是ぞイスラエルの子等に向ひて、神は汝等の中より我如き一人の預言者を起し給はん、汝等之に聴くべし、と云ひし其モイゼなる。
38 是即ち曾て荒野に會せし時、シナイ山にて共に語りし天使、及び我等の先祖と共に在りし人、我等に授くべき生命の言を授かりし人なり。
39 我等の先祖は之に從ふことを拒み、却て彼を斥けて心をエジプトに転じ、
40 アアロンに謂へらく、汝は我等に先んずべき神々を我等の為に造れ、蓋我等をエジプトの地より導き出しし彼モイゼに就きては、其如何になりしかを知らず、と。
41 斯て彼等其時に當りて犢を造り、偶像に犠牲を献げ、己が手の業によりて喜びたりしかば、
42 神は彼等を眷み給はず、其天軍に事ふるに任せ給へり。即ち預言者等の書に録したるが如し、[曰く]「イスラエルの家よ、汝等荒野に於て、四十年の間犠牲と供物とを我に献げしか、
43 汝等はモロクの幕屋、及び汝等の神とせるレンファの星形、即ち禮拝せんとて自ら造れる像を舁廻れり、然れば我汝等をバビロンの彼方に移すべし」と。
44 抑證明の幕屋は我等の先祖と共に荒野に在りて、神がモイゼに語りて、自ら見たりし式に從ひて之を造れ、と命じ給ひし如くなりき。
45 斯て異邦人、即ち神が我等の先祖の面前に追払い給ひし民の國を占有せし時に、我等の先祖は此幕屋を取りて、ヨズエと共に之を携へ入りて、ダヴィドの時代に至りしが、
46 ダヴィドは神の御前に寵を得て、ヤコブの神の為に住處を設けん事を願ひければ、
47 サロモンは神の家を建てたり。
48 然れど最高き者は、手にて造れる所に住み給ふ者に非ず、
49 即ち「主曰はく、天は我座なり、地は我足台なり、汝等如何なる家をか我に造らん、我が息む所は何處なるか、
50 是皆我手の造りたるものならずや」と預言者の云へるが如し。
51 項強くして心にも耳にも割禮なき者よ、何時も聖霊に逆らふこと、汝等の先祖の為しし如く、汝等も亦然す、
52 汝等の先祖は、預言者の中の何れをか迫害せざりし、彼等は義者の來臨を預言せる人々を殺したるに、汝等は今此義者をば売り且殺したる者となれり。
53 又天使によりて律法を受けしも、汝等は之を守らざりき、と[述べたり]。
54 第四 ステファノの最期 此等の事を聞きて、人々の胸は裂くるが如く、ステファノに向ひて切歯すれども、
55 彼は聖霊に満ちたれば、天を仰ぎて、神の光榮と神の右に立ち給へるイエズスとを見て、
56 云ひけるは、看よ、我天開けて、人の子が神の右に立ち給へるを見奉る、と。
57 其時彼等耳を覆ひ、聲高く叫びつつ一同に撃ちかかり、
58 ステファノを市街より追出して石を擲ちしが、立會人はサウロと云へる若者の足下に己が上衣を置けり。
59 斯て彼等が石を擲つ程に、ステファノ祈入りて云ひけるは、主イエズス我魂を受け給へ、と。
60 又跪きつつ聲高く呼はりて云ひけるは、主よ、此罪を彼等に負はせ給ふこと勿れ、と。斯く言終りて主に眠りけるが、サウロは彼の死刑に賛成したりき。